財務戦略
2年連続で過去最高益更新を達成。さらなる成長投資で、企業価値向上に努めてまいります。
CFO就任にあたって
本年5月、代表取締役 副社長執行役員 兼 CFOに就任いたしました太古です。当社初のCFO職を担うに当たり、その責務の重さを真摯に受け止めるとともに、持続的な企業価値向上に向けた財務・資本戦略の構築に強い使命感を抱いております。
私は経営企画部門のキャリアが長く、当社グループ全体の経営を俯瞰しつつ、中期経営計画の策定、ガバナンス体制の整備、資本政策の遂行等に深く関わってまいりました。また、近年のIR担当役員としての活動を通じ、株主・投資家の皆様との対話から「中長期的な成長ストーリーへの期待」と「資本効率への厳しい視点」を肌で感じてきました。これらの知見を糧に、不透明な経営環境下においても戦略の方向性を冷静に見極め、CEOの迅速かつ合理的な意思決定をサポートしてまいります。規律ある成長投資と資本構成の最適化を両立させ、当社グループを次なる成長フェーズへと牽引していく所存です。
「中期経営計画2028」初年度の総括
過去最高益と資本効率の向上
中計初年度である2026年2月期は、極めて順調なスタートとなりました。『劇場版「鬼滅の刃」無限城 第一章 猗窩座再来』や 『国宝』等のメガヒットを創出した映画事業に加え、IP・アニメ事業が第二の収益の柱として確立しました。演劇・不動産事業も安定的に推移し、段階利益すべてにおいて過去最高益を更新することができました。特筆すべきは財務KPIの進捗です。営業利益は目標700億円に迫る678億円を達成し、ROEは目標の9%以上を上回る10.4%を記録しました。この成果は、当社の多角的な事業ポートフォリオが、変化する市場環境に対して高い適応力と強固な収益創出力を有していることの証左であると考えております。
事業基盤の深化:映画市場の「体験価値」再評価
特に「映画事業」の躍進は目覚ましく、当社グループ配給の映画の年間興行収入は1,600億円を超え、国内シェア50%を突破するという圧倒的なプレゼンスを示しました。コロナ禍を経て、消費者の行動様式は変化しましたが、劇場での「没入感」や「非日常の体験」というリアルならではの価値が再評価されています。『国宝』をはじめSNSを通じた口コミの拡散が、特定のターゲット層を超えた大きなムーブメントを創出する好循環も定着しました。人口減少社会においても、体験価値の深化を通じて国内市場のさらなるポテンシャルを引き出せると確信しています。
成長戦略の加速:IP・アニメ事業の投資フェーズ
中長期の成長ドライバーである「IP・アニメ事業」は、前期より報告セグメントを独立させ、その透明性を高めました。業績面では、GKIDSやサイエンスSARUのM&Aに伴うのれんの償却費の増加や、前期配信開始のゲームの償却費増という一過性費用により減益となりましたが、ビジネスの根幹である配信権や商品化権のライセンス収入は高水準で推移しています。
なお現在は北米・欧州・アジアでの自社拠点の拡充を完了し、全世界市場への直接デリバリー体制を構築する投資フェーズにあります。そのため、今後数年は費用先行となる局面もあるかもしれませんが、2032年に同事業で営業利益400億円以上という目標を掲げ、さらなる成長にドライブをかけてまいります。また、本年11月公開の『ゴジラ-0.0』の全世界配給を皮切りに、自社IPであるゴジラの価値最大化を図ります。
キャピタルアロケーションに基づいた戦略
キャピタルアロケーションと財務規律
「中期経営計画2028」では、3年間で2,000~2,100億円のキャッシュインを見込み、その大部分を成長投資(1,600億円)と株主還元(400~500億円)に配分する計画です。初年度は、政策保有株式の売却もあり、想定を上回る666億円の営業キャッシュフローとなりました。
これに対し、機動的な資本政策として149億円の自己株式取得を実施しました。配当性向35%以上の維持と合わせ、総還元性向は約65%に達し、株主還元の強化を実現いたしました。今後の焦点は、コンテンツ・IP領域の成長に資するM&A等の投資実行です。1,000億円の枠を設けておりますが、「投資枠を使い切ること」を目的とはしません。あくまで当該投資の持つ意義を十分に検討した上で、経済合理性・投資規律を優先し、適切な案件がない場合は、余剰キャッシュを機動的に自己株式取得へ充当するなど、資本効率を意識した柔軟な資金配分を行ってまいります。
不動産事業におけるレバレッジの活用
「帝劇ビル」再開発という大規模かつ長期的なプロジェクトに対しては、最適なファイナンス手法を選択します。本件は投資回収が長期に及ぶ資産特性を持つため、投資利回りと資本コスト(WACC)の関係を精査した上で、有利子負債を有効に活用し、ROEの向上に寄与させていく考えです。
資産の効率化:政策保有株式の削減目標
B/Sの最適化と資本効率向上に向け、政策保有株式の削減にさらに踏み込みます。これまでも保有銘柄数の削減は着実に進めてまいりましたが、一部株式の株価上昇により保有残高が2026年2月期末の純資産比で20%を超えている現状を重く受け止め、本年7月に「政策保有株式のB/S計上額を500億円超縮減し、2030年2月期末までに純資産比10%未満に引き下げる」という具体的かつ定量的な目標を策定いたしました。段階的な売却によって創出したキャッシュは、成長投資や株主還元の強化に振り向け、資本効率の向上につなげてまいります。
| 政策保有株式の縮減方針 |
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ROEを起点とした経営管理の徹底
私はCFOとして、ROEを単なる結果指標ではなく、すべての経営施策の妥当性を測る「羅針盤」として常に念頭に置いています。当社の持続的な企業価値向上には、株主資本コストを安定的に上回るROEを維持し、エクイティ・スプレッドを創出し続けることが不可欠です。そのためには、本業である映画やIP・アニメ事業の収益性を高め、マージンを改善する「稼ぐ力」の強化が最優先課題であることは言うまでもありません。しかし、それと同時に重要となるのが、B/Sの最適化を通じた資産効率の向上です。政策保有株式の計画的な削減に加え、不動産事業においても物件ポートフォリオを精査し、保有意義の低下したノンコア資産を売却し、そこで創出したキャッシュを成長領域へと再投資してまいります。同時に、成長投資の進捗やキャッシュポジションの状況に応じ、配当や自己株式取得を組み合わせた適切な株主還元を実行することで、自己資本の適正化を図ります。分母(自己資本)と分子(利益)の両面から規律あるコントロールを行うことで、資本効率の高い経営体制を盤石なものとし、グローバルな資本市場の期待に応えていく所存です。
最後に:ファン株主の拡大に向けて
本年3月に実施した1:5の株式分割は、投資単位当たりの金額を下げ、より多くの方々に当社の成長に参画していただくための施策です。幅広い層に当社株式を保有いただくことは、市場流動性を高めるだけでなく、当社の企業理念やコンテンツへの深い理解に基づく安定株主層の形成に寄与するものと考えております。当社の株主の皆様は、同時に当社作品の大切なファンでもあります。こうした「ファン株主」の皆様とのエンゲージメントを高めるIR活動にも注力し、長期的な視点での株価形成を目指します。
皆様におかれましては、当社の持続的な成長に向けた挑戦に、引き続きご期待とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2026年5月